化哲感想

アファンタジア(映像を想像できない) 2013入社(メーカー技術)

製薬メーカー・化学メーカーの研究職への就職

 前回の記事で、薬学部4年制からの製薬メーカーや化学メーカーへの就職の概要を書きました。今回は、これらのメーカーの研究職への就職について、(薬学部に限らず)化学系学生の視点から書こうと思います。

okushishu.hatenablog.com

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製薬メーカーと化学メーカーの研究部門の比較

製品

 製薬メーカーと化学メーカーの大きな違いは製品の種類です。製薬メーカーの製品はもちろん医薬品であり、物質としてはほぼ有機化合物です。有機化学系と生物系の学生を主に採用します。化学メーカーの製品は多岐にわたり、メーカー次第ですが有機化合物だけでなく高分子化合物も無機化合物もあります。そのため、製薬メーカーと違って無機化学や高分子化学の学生も採用します。

募集人数

 製薬メーカーは募集人数が少なく、有機合成系や薬理系などといった専門分野ごとに数人レベルでしか採用しません。しかも製薬メーカーの数自体が少ないため、分野ごとにその年に就職可能な人数が本当に限られています。ほとんどの場合、その分野で有名な研究室の中から優秀な学生が採用されます。

 学問の世間は狭いですから、内定する学生の素性は知られている場合が多いです。就活の時期には、「○○研のあの△△さんが☓☓社に内定したぞ」などという噂が駆け巡ります。そういう噂が重なると「ああ、ということは☓☓社にはもう空きがないな」となんとなくわかります。次々と席が埋まっていくのが実感されるため、本当にシビアな就活です。

 採用人数のあまりの少なさゆえ、製薬メーカーへの就活は実力だけでなく運にも左右されます。景気が悪いとただでさえ少ない採用人数がさらに減りますし、各社の事情で特定の分野の採用がゼロになることもあります。タイミングも大事で、たとえ同世代で1番の実力の持ち主でも、先に他の人が内定して定員を満たしてしまっては受かるものも受かりません。実力があれば受かる大学受験とは大違いです。そのため、製薬メーカーに絞った就活はリスキーです。なるべく大手から中堅までたくさん受けた方がよいでしょう。

 一方、化学メーカーでは、就活段階ではっきり分野ごとに分けて採用する場合はあまりありません。生産技術職(製造職)等の他の職種とまとめて採用する場合もあり、採用人数も多くなります。製薬メーカーが第一志望であっても、化学メーカーを練習として受けるのもありだと思います。

 化学メーカーの採用人数が多いと言っても、これまた油断は禁物です。自分の特に行きたい会社にだけ絞って就活すべきではありません。就活というものは不確定要素が多い(例えば各社が求める人材は毎年違う)ので、実力があっても受からないということが当たり前のように起きます。なるべく多く応募しておくのが無難です。ちなみに私は製薬・化学メーカー合わせて40社以上受けました。もっと多く応募しても良かったと思います。

修士か博士か

 製薬メーカーは博士を採ることが多くなっています。博士しか採らないところもあります。博士の専門性や海外での活動を見越してのことだと思われます(海外で研究者として通用するには博士号が必要なため)。すでに修士で入社した人も、社会人として博士号を採るケースがあります。

 一方、化学メーカーでは博士号にこだわるケースはあまりありません。基本的には修士と博士は対等に扱われます。製薬メーカーと比べて研究職の業務内容が多岐にわたり、専門性をそこまで問われないためと思われます。

専門性・流動性

 製薬メーカーは高い専門性が必要とされます。その分、異分野への異動はあまり多くありません。

 化学メーカーは、場合によりますが最初から専門性が必要とされることはあまりありません。その分流動性が高く、異分野への異動もしばしばあります。仕事をしながら専門性を身につければよいというスタンスです。生産技術職等からの異動又はその逆の異動もあります。

学歴

 採用を絞っている分、製薬メーカーの研究職に就けるのは、旧帝大クラスの高学歴が多いです。しかも各分野で有名な研究室の学生が採用される事が多いです。

 一方、採用数の多い化学メーカーでは地方国立大や私大の学生も多く採用します。しつこいようですが、だからといって化学メーカーなら楽に受かるということはありません。旧帝大の有名研究室の学生でも、どこにも受からなかったというケースを実際に複数見ました。

給与

 言わずもがなですが、製薬メーカーの給与は高いです。化学メーカーの給与は普通です。どちらにしても、ボーナスの額は景気や業績で変わってきます。

安定性

 リストラのリスクは、製薬メーカーの方が大きいと思います。もちろん化学メーカーにリストラがありえないということはありません。しかし、そもそも化学メーカーは事業領域が広く、どこかの事業が不振でも、別の事業が好調だったり新事業を生み出したりするので、割と会社全体としては安定しています。製薬メーカーは特許切れなどで業績の浮き沈みが激しいです。

 化学メーカーで仮に業績不振に陥ったとしても、事業間で人員のやり取りができるのでリストラまでは至りにくいのです。例えば高分子系事業Aを縮小しても、有機低分子系事業Bに人材を移行する手があります。製薬メーカーでは社員の専門性が高いため、なかなかそういった融通がききません。

 実際に近年では国内製薬メーカーの研究所閉鎖や人員削減の事例を多く聞きます。バイオ医薬品の台頭や外資系メーカーによる合併などで、製薬メーカーの体制は移り変わりやすくなっています。

第98回 武田の今後を暗示する湘南研究所7年間の混迷 – 集中出版 SHUCHU PUBLISHING

相次ぐ国内研究所閉鎖の動き | 日刊薬業 - 医薬品産業の総合情報サイト

【企業特集】アステラス製薬 「武田超え」の好業績でも研究部門削減を急ぐ危機感 | 週刊ダイヤモンド 企業特集 | ダイヤモンド・オンライン

化学メーカーもおすすめ

 単に就活の難易度で言えば、化学メーカーの方が製薬メーカーより内定を得やすいです。とはいえ、医薬品を作ることに携わりたい人なら、それでも製薬メーカーに行きたいと思うでしょう。

 しかし、「必ず製薬メーカーの研究職になるんだ!製薬研究以外ありえない!」と思っていると、就職できなかった場合に辛くなります。化学メーカーは製品も業務内容も多岐にわたっており、就職後のイメージが湧きにくいですが、化学でものづくりができるという点では同じです(医薬中間体の受託製造をする化学メーカーもありますし)。医薬品よりも研究開発の成果が出やすく、自分の携わった仕事の社会貢献を実感しやすいという利点もあります。必ずしも作るものが医薬品でなくてもいいなあと思うなら、化学メーカーにも視野を広げてはいかがでしょうか。